神 様 の 詩

 全能といわれる私だが おまえを捜す 旅の果て 「めくら」になってしまった
「おし」になってしまった 髪は 伸びほうだいで 身体はすっかりガタガタだ
一目おまえに会いたい! 
その一念で 弱り切った足を 一歩踏み出す 見えない目を 前に向ける

 おまえは なんと愛らしいのだろう おまえがいるというだけで 私の胸は高鳴る
いいことを しなくても 尽くしてくれなくても どうでも いいことだ
実に もったいない おまえが存在していることは 親孝行なのだよ
なにもしなくていいよ いつまでもいつまでも 私のそばにいてくれるね

 おまえを肩車して 宇宙をかけめぐりたい 「いい子だ いい子だ なんていい子だ」 
と言って みんなに自慢するのだ 

 ミカエルよ ガブリエルよ 星よ 鳥よ 見ておくれ 
この子は すばらしいだろう 親孝行者だろう そして なんてまぶしいのだろう

 おまえが話し 私が語りかける 至福の刻よ いついつまでも こうしていよう
私は れいれいしい祈りはいらない お金も ほしくない ただ お前のそばにいて
しみじみと過ごしていたいよ 
なぜ この私を 高い所に 殿堂に 一人ぽっちに追いやるのか 
おまえが好きなのだ
  
 おまえ一人のために 数万人を犠牲にすることもあり得る 私は多数決の神じゃない
何の価値もない一人の生命のために すべてを尽くしてやまない
無条件に 無制限に 心底 おまえのことを思う 
かけがいのない おまえ 絶対なる おまえ
おまえのためなら どんな苦労もするよ

 どんな肉親 友人よりも 私は おまえに近いのだ おまえの心の中にいるよ
おまえの一部なんだよ おまえが笑う時私も笑い おまえが苦しむ時私も苦しむ
寝ている時も 起きている時も 走る時も 休む時も いつも一緒だ 
私は おまえなのだ



 すべての人が おまえを足げにしようと のけものにしようと
最後の最後まで おまえの味方だ 決して捨てはしない
うえるように おまえのことを想う おまえが私をみつける
はるか前から おまえを捜す旅に出たのだ
おまえと真の出会いができる それを ただ一つの灯として 身も心も ぼろぼ
ろになって歩んできた こわい旅だった さびしい旅だった 道連れは なかっ


 こうしておまえとやっと会え 今までの道ゆきも楽しく思えるよ

 「生きていよ」 「生きていよ」 星にたくした おまえへのメッセージ
小さな星一つにも おまえへの 熱き想いをこめて 創ったのだ
苦境にあって 死んだとき 下を見ないで 空をあおいでごらん
「生きていよ」という星のまたたきを 目にするだろう
生きてゆけば それでいいのだよ 他に何も 望みはしない

 「わが子よ わが子よ」 私は 狂ったように 呼び求める 祈りのように くり返す
私の国はない どこに行ってもよそ者扱いだ 私の国がほしい ちっぽけでもい
い 貧しくてもいい 地の果てまでも 私を追い出さない国が!



 こうして おまえと語り合いたい 私は 決して わからず屋じゃないんだよ
フムフムと言って みんな 楽しく聞くよ 
ユーモアだって持っている 象の鼻を キリンの首を みてごらん 私流のおど
けだよ私が わからず屋だという評判があるのは 困ったことだ そんなのでは
 ないのだおまえと 語り合いたくて 切ないよ もどかしいよ

 ミカエルよ 私の愛し子はどこに行ってしまったのか 目が開かないのだ 見え
ないのだ涙のほとばしりゆえ おまえも覚えているだろう 愛し子が生まれた時
のことをあああ 私は もう 死んでもいいと思った 愛し子が 狂ったように
踊ってしまったねいとし子がいたずらしても うれしい 泣いても怒っても 
うれしかったそれなのに この私をおいて どこにいったのだ 情の天使のおま
えなら少しはこのつらい気持ちを わかってくれよう どこまで行ったら愛し子
に会えるのだろう ミカエルよ 盲の私の手をひいておくれ

 「少しは休んでください」 なんて言うものではない
ミカエルよ あの子のことを思うと 一刻だって のうのうとしていられない
嵐の中に あの子がいる 孤独のふちに あの子がいる
手を差し伸べずにはいられない わが身のことなどかまわない
ミカエルよ わたしのことを 心配してくれるなら どうか おまえも
あの子の 行方を 捜しておくれ

 私には 救うことしかできない あああ それしかできない
おまえが どんなに悪くなっても 罪を犯したとしても ただ、この熱い胸に抱
きたい一念だ

 おまえのことを 想い想って 気がおかしくなりそうだよ
私の方に近い 傷ついた者の方が 傷つけた者よりずっと
私は弱り果てたもの 傷ついた者の味方だよ
強い人間は 独りでも生きていける でも 弱い人間は面倒をみなければ
乞食 孤児(みなしご)はみんな私の子だ さびしい 孤独な魂は 私の一部な
んだよ

 ガブリエル あの子は 私の子はどこに行ったのか あの子がいない
私の心は まっくらだよ あの子は 実にいい子だ 私を捨てるはずがない
きっと もどってくる
気分を変えて 山へ行っただけで 私は気をとりなおそう 部屋をととのえよう
すぐにも あの子が帰ってくるかもしれないから
ガブリエル 心配はいらない きっと 元気でもどってくるよ



 あの小さなロバは 私なのだ せめて イエスをのせてゆきたかった
私のために生まれて 私の為に死んでゆく イエス
いつも 私を慰めてくれた イエスのおかげで ずいぶん元気になれた
そのイエスが 十字架に つけられるとは イエスの心を 私は運んでゆく
とぼとぼと 下を向いて 行くしかない 私はイエスを慰められない

この路傍の石ころ ひとつにも 私の想いを こめたのだよ
生まれてくる おまえの おおもかげ をしのびながら 心を込めて 創ったのだ
石ころに 耳をよせれば 聞こえてくるだろう
「いとしい いとしい」って それは おまえに呼びかけた 創造の時の 熱き
ほとばしりの叫びだよ

 おまえのあがないのためなら すすんで地獄に行こう 
十字架につこう わが身がどうなってもかまわない 
おまえの魂のためなら 喜んで煉獄の火に この身をさらそう
私が悪いのだ おろかなのだ
あの子は何も悪くない あの子はいつも純粋だった
ちょっと迷っただけだ 自分で自分を傷つけている あの子を見ていると いたたまれない
みんな私が悪いのだ 私があの子を生んだんだもの あの子の本当の親なんだもの



 一日として ほほを濡らさない日はない 目はトマトのように 真っ赤に 腫れてしまった
おまえのことを思うと 不憫でならない
一人ぽっちで苦海をさまようとは 早く 安らぎの岸辺に連れてゆこう
私の手に おすがり ちょっと差し伸べれば いいのだ そして私の涙をぬぐってほしい

 捨てられ ふみにじられ ばかにされた者にしか 私の姿はわからない
神なる私が そうなのだから 切ない心を縫うものはいない
破れた心から どくどく 血は流れてゆく
そのしたたりを受け止めたのが 小さな ゼラニウムの 花びら だけだ
黄金のしずくより もっと尊く思えるよ 私の為に流してくれた おまえの 涙の 一滴は…

 星は 私の涙のしずくが やがて固まってできたもの 澄んだ水色のまたたきは 私の心なのだ
絶え間なく おまえのことを想い 涙するゆえ 空は すっかり星だらけだよ
あまりにも 心が痛むゆえ 私は 心を切り取りたい
さまようおまえを見つけるまで この痛みは 続くのか 
どんなに美しい花が咲こうと 可憐な鳥が さえずろうと
私には 見えぬ 聞こえぬ 一途に おまえを 求めるばかりだ

 嘆くおまえを見るのが つらくてならないよ 罪あるままに 私のもとに帰って泣くがいい
決して罰しない 嘆くおまえが すでに罰したのだもの
それ以上 私が何しよう 罪ある身で生まれなければならなかった
おまえに すまないのだ 咎を犯す おまえを見て ただ 私が悪い と責めるばかりだ

 せめたりできるものか おまえをせめたら 私は私でなくなってしまう
それよりも わが身をせめるのだよ
おまえを守りきれない おまえの魂を満たしきれない この私が 悪いのだ
どんな罪も 許されるのだ 悔恨にくれる おまえの涙は 今 救いの岸辺にたどりつく

 傷つき 弱り果てた者のために 私はいる 元気な者は そのままで生きてゆける
けれど 病気に伏すものは 放っておけないじゃないか 魂の病にかかった者は
 私の腕におすがり

 そっと抱いてあげよう 私も ずっと ひとりきりなのだよ

 そんなに悲しい道を 死の淵を 歩かなければ 私のことがわからないとは す
まないことだ 

 傷を負うて 孤独の私の身のゆえ ふつうでいったら わからないのだよ
栄光の神より 嘆きの私なのだよ おまえが 私に捧げる祈りは 薫香となって 届く
その一言一言に 私の魂が染み入る 溶けるように


6、<真珠>

 真珠は あこや貝の傷から生まれる 貝は 痛みをシーンと受け止める
すべての情念を 昇華するごと 苦しみを「よし」とするごと そしていつか 
白い光の粒を宿していく おまえの傷も 私の傷もそうなのだよ 

 どんなに胸がしめつけられるほどの 痛みでも 
心のやわらかさを忘れなければ それは 宝石の刻を生んでいくのだ

 どんな小さなひとりをも 神はみすてることはしない…

7、

 そんなに遠くに 私を追いやらないでおくれ ちゃんと おまえの胸の中にいるのだよ
他なんかにいやしない おまえの胸の部屋が 窮屈であっても 
ちらかっていても そこが 私の住まいなのだ
きんきらの御殿なんて からっぽだ 私は 住みたくない おまえの部屋にいる
と ふしぎに安らいでくる

 さあ 開けておくれ 私にとって そこが王宮なんだよ

8、

 夕陽をみてごらん おまえを喜ばせたくて つい 沢山ぬりすぎてしまった
私は いつだって 自分のことなど考えていない
みんな おまえにどうしたら 喜んでもらえるかばかりだ
あの夕陽の色具合 気に入ってくれるだろうか
ずたずたに傷ついた おまえのために 私は 地の果てまで 薬草をさがしにいこう
その傷がいえるまでは休まない

 私は 沈黙などしない 絶叫ばかりだ おまえを救う力の足りなさに もだえるばかりだ

 顔と顔を向け合おう モーセのときも そうだった イエスのときも そうだった おまえとも
 そうしたいよ